伝統医学では「産後病」として治療します
産後も妊娠中と同じように、東洋医学の古典ではわざわざ「婦人産後病」という部門をもうけて、産後の種々のトラブルを乗り切れるようにしています。
また、産後に鍼灸や漢方薬を用いて養生することは、産後に起こる異常を予防するためだけではなく、母乳の出をよくしたり、数年後に起こることが予想される更年期障害の予防にもなります。
産後の鍼灸や漢方薬による治療は、基本的なところは不妊症や妊娠中の治療と同じように「血」を整える治療です。
その中でも、特に産後の治療で重要な点は、
1.産後の熱(産褥熱、さんじょくねつ)の治療
2.出産が原因の瘀血(おけつ)の対処
です。
1. 産後の熱(産褥熱)について
まず産後の熱ですが、高熱の場合は感染症のおそれがあるので、病院を受診してください。
東洋医学で問題にするのは感染症以外の熱です。
熱といっても、ほとんどの場合微熱もしくは熱感があっても体温計では熱がないという状態です。
東洋医学では、この熱は血虚によって起こると考えます。(血虚の説明は不妊症の治療のところにあります)
つまり、妊娠、出産によって「血」が不足して血虚の状態になります。
そして、血(陰)が不足して気(陽)とのバランスが崩れることで、微熱や気持ちの悪い熱感が生じます。
この熱はいろんなところに波及して、種々の症状の原因になります。
特に、熱は上昇する性質があるので、からだでも上部に波及しやすく、体がほてってのぼせたように感じたり、頭痛やめまいがすることもあります。
さらに血虚がベースにあるので、疲れやすかったり、気分がイライラしたり、気うつの傾向になったりします。
この病態の鍼灸や漢方薬による治療の基本は、「血」を補うことで熱の発生源を絶ち、あわせていろんなところに波及している熱は、陰気を補うことで治め、種々の不快な症状を改善します。
もしこの状態が長く続くと、「産後の肥立ちが悪い」ということになり、こじれることになります。
そのため、昔から産後はからだに負担をかけないように言われ続けていますが、特に「血」を消耗する目に負担をかけることをいさめています。
それなのに、出産後の病室で一日中テレビを見たり、スマートフォンを見たり本を読んだりしている人をみるとハラハラします。
2. 出産が原因の瘀血について
瘀血とはからだの内部に滞って流れの悪くなった血液のことで、東洋医学独特の考え方です。
俗に古血と言ったりします。
これは、血をめぐらすエネルギーとも言える「気」が、いろんなことが原因で減退して、血の流れが悪くなり、悪い血が滞った状態です。
出産もその原因のひとつになります。
この瘀血に対処しないで残ってしまうと、偏頭痛、月経痛、腰痛、肩こり、めまいや精神不安などの種々の症状の原因になったり、時間が経つと下肢の静脈瘤の原因になったりします。
この病態の鍼灸や漢方薬による治療は、滞った悪い血をめぐらすために、減退している「気」を補います。
特に血室と言われる部位の陰気を補い、滞った悪い血をめぐらします。
この瘀血にうまく対処すれば、出産前は虚弱体質だったひとが、産後は見違えるくらい丈夫になったりします。
出産は精神的にも肉体的にもとても疲れます。
さらに育児の負担も重なるので、産後はこれまでみられなかった症状があらわれることがあります。
以上のことを参考にして、赤ちゃんのためにも丈夫なお母さんでいてください。