東洋医学からみた春の過ごし方

春は陽気が芽生え始める季節です

古代中国の自然哲学に「陰陽」という考え方があります。

これは、万物はすべて陰と陽の二元に分類されるという考え方です。

例えば、一日でいうと昼は陽であり、夜は陰、一年でいうと夏は陽であり、冬は陰です。

そして陰と陽は固定的な概念ではなく、一定のリズムをもって変化しています。

これを季節の変化でみると、

陰が極まった冬から立春が来ると陽の割合が少しずつ増え、春分の頃には陰と陽が相半ばになり、夏になると陽が極まり、立秋になると、今度は陰の割合が少しずつ増え、秋分の頃に陽と陰が相半ばになり、冬になると陰が極まります。

このように、陰陽は絶えず一定のリズムをもって変化(消長)を繰り返しています。

これを踏まえ春に目を転じると、冬に盛んだった「陰気」が次第に衰えて行き、「陽気」が徐々に増加してくる季節です。

この陽気の力によって、草木も芽吹き、虫も活発に動き始めます。

人のからだも自然界の一部ですから、自然界の動きに応じて陽気が増え、活動的になるのが自然です。

ですから、学校や会社など社会全体が新年度として、春から新たに活動を始めるのは自然の成り行きと言えます。


この時期に決まって体調を崩すひとは、この陽気の変化にからだがついて行けないためだと、東洋医学では考えます。

花粉症しかり、春になると更年期障害が出やすいのもしかりです。

各々の疾患については、「東洋医学からみた病気」にて逐次アップしていきます。

とりあえずこの時期は、自然界の陽気の動きに合わせて、ウォーキングのような軽い運動で、自分のからだの陽気を少しずつ活動的にしていくだけでも体調が整います。

できれば、一日のうちでも春にあたる時間帯である、夜明け頃からお昼までの間に行うのが理想的です。

春は「血」の働きがとても重要です

古代中国の自然哲学には、先の「陰陽」という考え方と、もう一つ、この「陰陽」から派生した「五行」という考え方があります。

それによると、万物の構成要素としての木・火・土・金・水(もっかどこんすい)は、季節や人のからだでいうと次のような関係になります。


木 = 春 = 肝

火 = 夏 = 心

土 = 各季節の土用 = 脾

金 = 秋 = 肺

水 = 冬 = 腎


この五行説で見ると、春は「木火土金水」の木にあたり、人のからだでいうと「肝」が木にあたります。

このように、春に関係するのは肝ということになります。

これらの関係は、ただ形式的に季節と五臓を当てはめたのではなく、それぞれに意味があります。

春は肝の気が盛んになる季節ですが、東洋医学でいう「肝」は現代医学でいう肝臓とイコールではありません。

東洋医学では「肝」は血の貯蔵庫と考えます。

そして貯蔵された血は必要に応じて全身に送られて、からだを動かしたり、頭を働かせたりします。

ですから肝が充実している人は、春になってからだが活動的になって血をたくさん消耗しても、その動きについて行くことができて何の問題も起こりません。

ところが、肝が充実していない人、すなわち血の蓄えが充分でない人(現代医学の貧血とイコールではありません。東洋医学では血虚といいます。)は、自然界の春の動きについて行けずいろんな症状を現します。

特に、肝に関係が深く血を多く必要とする目や筋に現れやすく、目が疲れやすくなって見えにくくなったり、腰痛や肩こり、神経痛などが起こります。

また、血を消耗して少なくなるとイライラして怒りっぽくなり、のぼせてフラフラしたり、偏頭痛や不眠になります。(更年期症状が春に悪化しやすい原因もこの辺にあります。)


このように、自然界の春の動きに順応するためには、血の働きがとても重要です。

血が不足しがちな女性が、春になると不調を訴えることが多くなるのはこのためです。

このように春になると体調を壊しやすいひとは、余計な「血」の消耗を避けるために、長時間眼を使ったり、根を詰めるような仕事をできるだけ減らすように心がけましょう。